俳優さんの様な顔立ちの男性が
カフェの扉を開け、席についた。
「ホット珈琲。」
口数の少なそうなそのお客様に
珈琲をはこぶ。
オープン20分前だった。
暖房が効ききらない店内では、心なしかいつもより珈琲からの湯気がくっきりと目に飛び込んできた。
『店内の家具やカップに統一感がないけど、ここはどんなお店?』
なぜ、私たちがカフェをスタートしたのか、今までどんな活動をしてきたのかを話すと
その男性は、名刺を出し
ご自分が陶芸家であることを話してくれた。
『まだ始まるまでに少し時間あるでしょ?ちょっと着いておいで。』
彼の工房を見せてくださるという。
他のスタッフに店を任せると、彼のトラックの後へと着いて行った。
山の中へと入って行くと、そこは別世界の様に、見たこともない沢山の薪の山が何処までも続いていた。
大きな窯が森の木々に囲まれながら、大昔から山奥でそうしていたように寝そべっていた。
生徒さんがろくろを回す部屋の中には、太い杉の木が三本
天井を突き抜ける様に立っていた。
通されたプレハブには
所狭しと陶器が置かれていた。
『持って行って、店で使いなさい。』
朝初めて会ったばかりのその男性は、手早く珈琲カップや大きな器を新聞に包み持たせてくれた。
会った瞬間には無かった優しい笑顔を一緒にいただき『早く戻りなさい。』と促され、私は頂いた陶器を車に積み込むと、彼の工房を後にした。
『夢だったのだろうか?』
二日後、その男性が
カフェでご自分の珈琲カップを手に
『いいカップだね』と、微笑む姿があった。
夢ではなかった。
夢ではなく、世の中には
優しい方達が溢れているんだと
心に染み込んだ『時』だった。
石坂さん
本当にありがとうございました!