朝からオープン前のカフェの電話が忙しく鳴り響く。
『今から、お年寄りを連れて伺います。トロミのついた珈琲が二つとムースのケーキをお願いします。』
オープンして半年目となるごちゃまぜカフェには、
高齢者福祉施設を利用されているお年寄りが、介護職員さんと一緒に足を運んでくださる様になった。
車椅子や認知症のお年寄りを連れての外出は、介護職員さんにとってはひと手間かもしれないが、介護福祉士であるスタッフが常駐している『ごちゃまぜカフェ』には、安心して遊びに来ていただければいいなと思っている。
『あ、カメラを施設に忘れちゃった…』
忙しく、カメラを忘れてきた職員さんの代わりに、カフェスタッフが一眼レフのカメラで写真撮影をさせていただき、後で写真をデーターで送る約束をする。
『直ぐ戻るので、トイレ行って来ても大丈夫でしょうか??』
認知症のお年寄りから離れられず、トイレに行けずにいた職員さんが、カフェスタッフに声をかけてくれると、なんだか嬉しくてたまらない。
『どうぞ、どうぞ、何時間でも!』
そんな冗談を言いながら、私が職員さんの代わりにお年寄りの手に手を重ねると、お年寄りも声をたてて笑い出す。
そんな瞬間が、私はたまらなく好きだ。
私が、グループホームの職員をしていた頃、お年寄りが行きたいと話す場所へは、『じゃあ、今から行きますか!』と皆で連れ立って外出していた。
同じ部屋の中で、寝たり起きたりを繰り返すだけの毎日では、認知症でなくても、笑顔を失ってしまう。
太陽を感じて欲しかった。
外の世界の方達と、笑顔を交わして欲しかった。
人は、人の中で生きてこそ社会性を育み、自分を保つ事が出来るのだと私は感じている。
ドーナツ屋さんで飛び回る子供達を見つけると、お母さん達にお願いして、お年寄りとコミュニケーションをとってもらった。
『喜んで!』とお母さん達は笑顔で子供さんを抱っこされてくれた。
ご飯を食べに行ったレストランでは、認知症のお年寄りにご自分でお金を払っていただけるように、レジに立っている店員さんにどうやって認知症の方に声をかけ、どんな風に手伝って欲しいかを説明した。
みなさん、心良く引き受けてくれた。
知らないだけで、知ればいくらでも助けてくれる。世の中は、捨てたもんじゃない。
出逢いの点と点を結び、お年寄りの最後の『命の時間』に円を描いていくのも介護職の役目なのではないだろうかと、カフェをスタートし改めて感じている。
『今日は、最高の日だ!』
今朝も認知症のお年寄りが、カフェのスタッフとのやり取りに万歳をしながら、最高の笑顔をプレゼントしてくれた。
カフェの店員であることに、無限の可能性を感じるのは、私だけだろうか?
介護の仕事につけて本当に良かった。
ハピスポをスタートして本当に良かった。
カフェをオープン出来て本当に良かった。
年輪を重ねた柔らかい手に触れて、また明日もいい日にしようと心に『未来』を刻み込ませてくださるお年寄りの温かさが、私は何よりも大好きだ。