ごちゃまぜカフェ物語 48

若い女性が、一人でランチを食べに来てくださる姿も最近は珍しくはない光景になったごちゃまぜカフェに、

今日も一人、笑顔が素敵な女性が
重い扉を開けて中へと入ってきてくれた。

『本日のランチを一つお願いします。』ニッコリ笑う彼女と視線が合った。

『以前に来ていただいたこと、ありましたか?』親しげにしてくださる彼女に、私が思わず尋ねると、帰ってきたのは意外な言葉だった。

『いいえ、初めてです。最近福祉関係の仕事に就いたのですが、ごちゃまぜカフェへ行ってごらんと知人に紹介されて。…でも、何年も前に長野市の駅前でハピスポのイベントのチラシをいただいたことがあるんです。男性と女性で歌を歌いながらイベントのチラシを配っていませんでしたか?』

昔の記憶が、急に蘇ってきた。

なかなか自主企画イベント『ハピスポひろば』の告知が上手くいかなかった頃は、ビラを手配りしたこともあった。

彼女が懐かしそうに話す。

『10時になると、駅の方に注意されちゃうんですって教えてくれました。私、いまギターが好きで習い始めたんです。』

7年目となるハピスポの活動。

自分達が記憶の中に置き去りになっている『時間』すら、『今』と繋がっているのだと改めて教えてもらった気がした。

無駄なことなんて、何一つないんだ。

彼女に、店に置いてあるギターを渡すと
恥ずかしそうに演奏してくれた曲は、

エリック・クラプトンの
“ティアーズ・イン・ヘブン”

店の中が静まりかえり、みんなが彼女の『音』に耳を傾けた。

胸が、あたたかくなり、少し苦しくなったのは、過去に置き去りにしてきた『記憶』がちょっぴり蘇ってきたからだろうか?

素敵な出会いと、別れと
そして再会を繰り返し

人の人生は前へ前へと駒を進めていくのかもしれない。

『また来ます。』来た時よりも、少し頬を赤く高揚させた素敵な笑顔と一緒に、彼女は店を後にした。

さあ今日も、一歩前へ

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