イベントが終了してから、早いもので
1ヶ月以上の月日が足早に過ぎ去っていった。
季節は夏。
あの日、私のサプライズ誕生日を開き
驚かせてくれた一人の女性から、素敵なメールをもらい、あの日の『瞬間』をまた思い出させてもらった。
こちらこそ、いつもありがとう。
いつかの、もっといい日の為に
一緒に生きていこう。
「恩返しがしたい」
私が心を突き動かされた理由は、ただその一言に尽きる。
ごちゃまぜカフェを初めて訪れたのは、2016年の6月のことだった。
当時はまだ結構な引きこもり状態だった自分は、カフェ内に備え付けてある「ひきこもり部屋」という、おあつらえ向きのスペースを発見し、そこに入っては人と距離を取ることが多かった。
でも、私は企画を構想したりプランを立てたり、人があっと驚くようなアイディアをイメージするのがとても好きだった。
ハピスポ代表の高山さや佳さんは、ちゃんとした学歴も職歴もない私のアイディアを「面白い」といって、形に出来ることはなんでも実現してくれようとした。
「最初からNGは出さない」
「まずはやってみる」
「ダメだったらまた考えよう」
そんな風に。
人と交流することがいかにもダメそうな自分を、私のアイディアはこの人と繋ぐと形になりそうだな…
そう思えば、どんどん人とも関わらせた。
「実体験に勝る教科書はない」と、なんとカフェ内で小さな講演会まで開かせてもらったこともあった。
こんな私でもまだ夢を追い掛けられるんだなぁと、人をまた信じられるようになり、カフェのフロアでみんなと過ごすことも多くなって来た。
そんなころ。
私は高山さんと、いつかの訪問の際一緒に自宅カラオケをしてもらったことがあった。
14歳から学校に行かなくなった私には、友達や仲間がいる環境は当たり前ではない。
友達とカラオケに行く。ショッピングに行く。映画に行く。
どれもいつか経験してみたいと願う、叶わない夢だった。
訪問の活動の中で出来るかどうかは定かではなかったが、高山さんならまたあの笑顔で「じゃあやろう!」って言ってくれる気がした。
案の定、喜んで我が家に来てくれた高山さんと二時間程歌った。
「歌が上手いね」
「声が綺麗だね」
「ハピスポは結構イベントやるから、ヴォーカルで歌えばどう?」
予想外の言葉をたくさんもらった。
私は自分の声が好きではないし、プロのアーティストが歌ってるのを聴くのが好きなため、それと比べれば自分の歌には良く幻滅していた。
自分と結婚した変わり者の主人は歌を褒めてくれたけど、どうせ贔屓目だろう…と、あまりアテにしたこともなかった。
でも、私の歌をそんなに評価してくれ、本当にカフェで歌う機会を与えてくれた。
私の歌に呼び寄せられたとフロアに降りて来た、カフェの大家である渡辺さんが、私の歌を聴いて涙していた。
その場で食事をしていたご家族が、拍手をして喜んでくれた。
目立つことが好きではない自分。
歌が上手いかどうかも、正直まだわかっていない。
なのに、カフェの中でなにかイベントをすると、人に話題を向けてもらって歌う自分がいる。
不思議な感覚だった。
今までの人生でほとんど「求められる」という経験をしたことのない私は、初めて人のためになにかを成している気がしていた。
しかもそれが嬉しいことだと知った。
今年、出会って一年になる高山さや佳さんのお誕生日には、なにかプレゼントをしたいと思っていた。
一年分の恩を返せるプレゼントなんてそうそう思いつかないが、色々考えあぐねるうち「そうだ。歌しかない!」と、閃いた。
カフェの中でマイクを持って歌うなどという積極性を、高山さんは私の中に見い出してくれた。
自分でも、出会ったことのない自分に出会わせてくれた。
高山さんに返せる形は、歌しかない。
そう思ったら、高山さん譲りの行動力ですぐに動いていた。
「楽器は、あの人に頼んでみよう」
「一緒に盛り上げてもらうには誰を誘ったらいいだろう?」
そんな風に色々問い合わせをして、自分で動いた。
高山さんを通してじゃないとなにも出来なかった、人間不信の自分はもうなりを潜めていた。
もちろん、出来上がった形が「ハピスポひろば 2017のビッグハットのステージで歌う」なんていうことは、さすがに想像だにしていなかったけれど。
でも。
ビッグハットのステージなんて選ばれたプロがたくさん立つステージで、自分が歌うなんて。
それを経験したら、もうそれ以上のことはそうそうないんじゃないか?と、あらゆることのハードルが、今は少し下がった気がする。
しかも今回なにより大変だったのは、やはり高山さんへのサプライズ企画だけに、高山さんに泣きつけないということ。
あんな広くて大きなステージで歌うなんて、規格外の出来事過ぎて足がすくんだ。
「緊張する」
「失敗が怖い」
「みんなどう思うか心配」
そういった不安は常に、高山さんに聞いてもらうことでどうにか乗り越えて来た。
でも今は、私が信頼している仲間に私自身が声を掛け、スケジュールを合わせて自宅に招き、少ない時間でまとめ上げた形を、ひろばのフィナーレの更に後の裏フィナーレとして高山さんに贈ることが出来た。
みんな笑顔だった。
何人もの人が、始まる前の私に声を掛けて行った。
「アレ(裏フィナーレ)大丈夫?」
「アレよろしくね!」
終わった後もみんなが労いの言葉を掛けてくれた。
「良かったよ」
「上手く歌えてたよ」
「かっこよかったよ」
「輝いてたね」
「〇〇ちゃん(私)が企画してくれたから、自分もさや佳さんに感謝を伝えられたよ」
「〇〇ちゃんに勇気をもらって、自分もステージ上に上がれたよ」
身に余る言葉をたくさんもらい、何人もの人が私と固い握手を交わしてくれた。
もう、過去の自分はいないのだな…と気付いた。
そして、高山さんにプレゼントを贈るはずだったのに、また私がプレゼントをもらってしまった…とも思った。
決断力。
行動力。
人を信じる力。
100人以上もの人が、自分のプランに賛同してくれ、動いてくれた。
良い意味で、私はもう「高山さんだけ」を卒業出来たんだと悟った。
高山さんにだけは、頼れなかったサプライズ。
それにも関わらず成し遂げられた自分を、6月25日は少し褒めてあげようと思った。
後で動画を見せてもらっても、やっぱり自分の歌は上手いともなんとも思わないけれど…。
企画を終えた現在の自分にも、変わらず発見がある。
高山さんへのサプライズをやり切った今、やはり私はここで終わりたくはなかった。
それだけ出来ればもう充分なんて、やる前は思っていたけれど。
高山さんが褒めてくれたアイディア力で、表現力で。
私はまた何処かで、なにかを作ったり表現したりするのかもしれない。
そして、隣にいるのは必ずしも高山さんではないかもしれない。
何処かでそういった私に出くわしたら、どうか暖かく見守って欲しい。
そして、高山さんが人に与えるすさまじいエネルギーを、まざまざと感じて欲しいと思う。
きっとそれを高山さんに伝えたところで、あっけらかんと「私の力じゃなくて、自分自身の力なんだよ」って、返されてしまうと思うけれど。
Gより